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近畿大学  助教授 松本長太

はじめに
 第16回にあたる2004年度のIPSは、1992年開催のオリンピックで有名なスペインはバルセロナで、6月30日から7月2日までの3日間の日程で開催された。

 バルセロナは『芸術の町』とも呼ばれ、1882年から工事が始まり、いまだに建設が今後100年は続くと言われているサグラダ・ファミリア教会をはじめとする建築家・ガウディの作品が、町の至る所で中世から変わらない古い町並みと見事に調和している美しい都市である。

 今回の学会は、カタルーニャ・モダニズムの最高傑作として知られ、世界遺産にも指定されているカサ・ミラで開催された。ホスト役は、バルセロナの Francisco Javier Goni先生である。
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会場となった世界遺産指定のカサ・ミラ
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左より、私、岩瀬愛子先生、山崎芳夫先生 カサ・ミラの屋上にて


日本からの参加者
 今回のIPSには、東京医科大学から尾さこ雅博先生、山田国央先生、阿川哲也先生、日本大学からは、山崎芳夫先生、川崎医療福祉大学の可児一孝先生、多治見市民病院の岩瀬愛子先生、鈴木眼科吉小路の鈴木武敏先生ご夫妻、近畿大学からは私と奥山幸子先生、高田園子先生、有村英子先生、橋本茂樹先生が参加した。
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日本から参加の先生方が集まって
前列左より、岩瀬愛子先生、山崎芳夫先生、可児一考先生、私、有村英子先生、
高田園子先生、奥山幸子先生、尾さこ雅博先生、山田国央先生
後列左より、阿川哲也先生、橋本茂樹先生


演題のトピックス
 今回の学会では、現在多方面で問題となっている視野進行の評価法をはじめ、視野解析法、新しい視野検査法、視野検査法の比較、視野と画像解析など、広範囲な視野に関する研究成果が約60演題発表された。さらに特別講演であるIPS Lectureでは、Anderson先生が『Quantifying Progression in Glaucoma』という演題で、視野進行評価の現状における様々な問題点についての総括的な講演を行なった。

 日本からは可児先生が、非常に小さな指標を液晶モニター上に提示して閾上で視野検査を行う方法を紹介された。また、Frisenらが考案した新しい Rarebit perimetryと呼ばれる、同じく非常に小さな指標を2個ずつコンピュータ画面上に提示して応答確率で視野異常を評価する方法についても、いくつかの発表がなされた。われわれも1990年のIPSで小さな指標サイズの有用性について報告したが、同じ考えを持っている先生方がおられることにたいへん共感した。

 東京医大からは阿川先生がGDXとFDTについて、日本医大からは、山崎先生がNTGの進行について、多治見市民病院からは、岩瀬先生がゲイズトラック法の新しい解析法について、鈴木眼科吉小路の鈴木先生はEye Check Chartを紹介された。Eye Check Chartは、そのロボットをモチーフにしたデザイン性からも多くのIPSメンバーに好評であった。 また、近畿大からは奥山先生がSITAなど時間短縮プログラムにおける信頼性のパラメータの問題点を、有村先生はM-CHARTSを用いた黄斑円孔の変視の定量を、私はOctopus300シリーズのフリッカー視野とHumphrey Matrixの比較について発表した。

 IPSでは、発表のみではなく、質疑応答にも充分な時間が割り当てられているのが特徴で、ポスター発表でも壇上で5分の講演と活発な質疑応答が待っている。白熱した議論にはなかなか参加することが難しく、英語の不得意なわれわれにはつらい面もあったが、質問者は皆、非常に建設的なコメントや質問が多く、今後の研究の道筋を考える上で非常に有意義であった。

 また今回は、一昨年に他界されたIPSの名誉会員である松尾治亘名誉教授、Heinrich Harms教授の追悼講演が、岩瀬先生とUlrich Schiefer先生により故人を偲んで行われた。
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ポスター会場での可児一考先生


ボードメンバーによるミーティング
 学会前日の朝から定例のボードミーティングが行われ、日本からは岩瀬先生と山崎先生、そして私が参加して、10名ほどのメンバーで今回の学会の演題数、 学会員の数、予算、新しいボードメンバーの人選、次期開催地などが、約5時間かけて真剣に議論された。

 次期開催地はJohnson先生の米国・オレゴン州ポートランドとなった。また今までPerimetry updateとしてまとめられていたIPS Proceedingsは今後、厳選されたものがActa Ophthalmologica Scandinavicaへ投稿されることになった。



学会でのハプニング
 今回の学会でも国際学会ならではのハプニングがあった。学会場のカサ・ミラは、世界遺産にも指定されているだけあって、警戒が非常に厳しく、手荷物はすべてX線検査を受け、われわれも金属探知器を通らなければ入れなかった。それだけではなく、スペイン独特の時間感覚に、みんな大変とまどった。

 学会の初日は朝8時からJohnson先生のレクチャーがあり、また、みんなもポスターを貼らなければならないため多くの先生方が朝7時半には会場の前に集まった。しかし会場は警備員にガードされていて、8時からしか絶対に入り口を通さないと言いはられ、中に入れてもらえない。「困ったなあ…」とみんなで話をしていたら、同じスペインのGonzalez先生が娘のMarta先生と現れて「これがスペイン流です。8時と言えば絶対に8時まで開かないよ」と笑いながら、「まあコーヒーでも飲みに行きましょう。」と誘われた。

 また会場では、猛暑の電力問題でしばしば液晶プロジェクターがシャットダウンした。しかもプレゼン用のWindowsがスペイン語バージョンだったので、進むと戻るが分からず苦労している先生もおられた。


趣向を凝らした社交行事
 IPSの楽しみは、専門的な学会内容のみならず、ホストが心を込めて用意した数々の社交行事にある。

 学会前日の29日夜のWelcome Dinnerは、バルセロナにおけるガウディの作品の中でも最も規模の大きいグエル公園で行われた。有名な陶器でできたトカゲの像が見守る石段を上がると、森のような壮大な多柱式のホールがある。月がバルセロナの夜に昇り、辺りが暗くなったころにWelcome Dinnerは始まった。食事も半ばにさしかかったころ、ピアノの演奏に合わせて左右と後ろからゆっくりと現れた男性3人の高らかな歌声が会場を包み込み、参加者を魅了した。
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トカゲの像の前で岩瀬愛子先生と私
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バルセロナの月

 30日の夜は、シーフードレストランでバルセロナの豊富な海産物を堪能したのち、カタルーニャ・モダニズムの象徴とも言えるカタルーニャ音楽堂でJessye Normanのコンサートを楽しんだ。ソプラノの美声に包まれ、学会前の連日の徹夜の準備や時差も関係して、ふと睡魔が襲ってきた。周りを見渡すと、すっかり眠り込んでしまっている日本の先生方もおられた。気が付くとコンサートは絶頂を迎え、アンコールの嵐となっていた。

 7月1日は、昼食後にカサ・ミラ内にある石や金属の曲線的な建築が特徴的なペドレラ邸を見学したのち、バスにてオリンピックスタジアムや豪華客船が並ぶ港を見下ろす公園などの市内観光を行なった。
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豪華客船が並ぶ港の風景

 最終日の2日の晩は、IPS恒例の伝統的なバンケットが今年も催された。この最終日のバンケットでは毎回、参加者が国別に分かれて、おのおの歌やパフォーマンスを繰り返して深夜まで歌い合う。

 日本勢は、『さくらさくら』を全員で合唱した。今回は、いつも絶妙な司会を務める近畿大の岩垣厚志先生が欠席とのことで、高田先生が前日、小さな店で購入した闘牛士の衣装に身を包み、スペインの国旗をマントのようにまとった橋本先生と有村先生を従えて闘牛士の剣で指揮をした。会場の絶大な拍手ののちに、橋本先生、有村先生がマントを脱ぎ捨て、日本伝統の空手の型と本格的な板割りを披露した。板がしめっていてなかなか割れないハプニングがあったが、最後には今回のホストであるFrancisco先生に壇上に上がっていただき、板割りにチャレンジしていただいた。無事に割れて拍手喝采となった。
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バンケットのメニュー
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闘牛士の衣装に身を包む高田園子先生を中心とした日本チーム
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空手を披露する橋本茂樹先生と有村英子先生
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有村英子先生の板割り
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学会長のFrancisco先生も板割りに挑戦

 バンケット・フィナーレのスペイン勢の歌では、参加者全員が自然と大きな輪をつくり、肩を組み、深夜まで別れを惜しみながら歌い続けた。

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フィナーレ、仲良く肩を組まれている鈴木武敏先生ご夫妻(右端)


おわりに
 次回のIPSは、Johnson先生がホスト役を務めて米国・オレゴン州のポートランドで2006年に開催される。2年先ではあるが、日本の先生方にもぜひ多くの方々に参加していただき、みんなでIPSを盛り上げていければ幸いである。
(写真は可児−孝先生から提供していただきました。)

千寿製薬発行(銀海)2004年 187号